『時間~口笛親父~』
親父はよく口笛を吹く人だった。
母に怒られても、愛犬が死んでも。
そんな彼を僕は軽蔑していたが、親父が死に、僕がちょうどその頃の親父の年齢になった時、僕は口笛をよく吹いていた。
駅のホームにて、列の先頭で電車を待っていると、線路が手招きしているように見える。
ホームの白線が現実と死との境目のようで、これを何かのはずみで乗り越えてしまうと一直線でこの現実がなくなる。
それも良いかなと思うときもあるが、僕は思いとどまるように口笛を吹いてみる。
弱い音色が脳に届き、『どうでもいい。なんとかなるさ。』と呟いてくる。
悲しい時やつらい時、仕事が忙しくて帰りが遅くなったときは口笛を吹いて気を紛らわす。
親父は僕たちの知らないところでさまざまな苦労をしてたのに、口には出さず、平気なフリをしていただけなんだと気づく。
時間が経つと分かるようになってくる。
時間が全てを流してくれる。それまでの間、悲観するのか、口笛を吹くのかは個人次第なんだと分かる。
―黒川洸太郎―
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