『ハゲ~閑話~』緑川凛太郎-ショート小説コンテスト49

『ハゲ~閑話~』

「どうでも良い話なんだが、佑司(ゆうじ)。俺の親父は五十を過ぎて突如禿げ始め、五年後には髪がなくなったのだ」
「だから何だよ」
 俺は従兄弟の悠生を軽く睨む。
「お前さ、どうでも良いとわかっているのならば、早朝に呼び出すなよ」
「いや、お前に聞いてほしくて。どうしても」
「どうでも良いんだろ?」
「そうなんだけどさあ。ほら、同じような遺伝子を持つお前なら、きっとわかるはずだと」
「……まあ、俺らはパッと見は双子だからなあ」
「名字と性癖くらいだよな、違うの」
「まあ、うん。そうだけど」
「で、だよ!」
 悠生は言う。
「俺も五十になったら禿げるのかな」
「知らねえよ!」
「いやあ、親父がそうだったからさ、俺もそうだという可能性があるし、高いじゃないか」
「知らねえって」
「知ってろよ、佑司」
「いや、俺の親父はそういうのじゃなかったと思うし、そうなる前に亡くなったから知らねえよ。つーか、禿げたら禿げたらだろ」
「いや、わかってないなあ、お前」
「……」
 ウザい。
 何だろう、今日の悠生はいつも以上にウザい。
 恋人である里陽(りょう)さんと喧嘩でもしたのだろうか。
「八つ当たりなら余所にして」
「だあ、つめてえなあ」
「いや、そうでもない」
「聞けよ。俺の話を」
「どうでも良い話は暇なときに聞くよ」
「どうでも良くない」
「どうでも良いって、最初にいったのは他ならぬお前だ」
「くっそ、口では勝てん」
「口以外でもお前は俺には勝てん」
「くそ」
 悠生は悔しそうに俺を見て「もういい」と言う。
「井村(いむら)先生に言う」
「被害者を増やすな」
「被害者!?」
「お前の八つ当たりのな」
 俺はそう言って軽く頭を掻く。
「てか、禿げたからって里陽さんがお前のことを嫌いになるとかないだろ?」
「ま、そうだけど」
「じゃあ、良いんでねえの?」
「うん…」
「はい、話はこれで終わり」
「いや、その。佑司」
「あ?」
「里陽ちゃんがな『禿げてて性欲も何もない奴って、色々と終わりだよね。ね、悠ちゃん』て言ってさ」
「?」
 何だ?
 何か、普通に話が落ちそうなのだが。
「どうした?」
「俺、性欲が人よりないから、禿げたら終わりだ! と思って、お前に話を振った」
「………」
 俺は少し息を吐いて「クソ」と呟き、大きく息を吸い、怒鳴るように言った。
「どうでも良いじゃねえか!!!!!!!!!!」
 と。
 その声は響き、軽くエコーがかかった。

―緑川凛太郎―

ショート小説コンテスト

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