『ハゲ~おまじない~』白川湊太郎-ショート小説コンテスト49

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『ハゲ~おまじない~』

あの子のことをずっと見ていた。
同じクラスの安原さん。腰まで伸びた黒くて綺麗な彼女の髪は、今みたいな夏の日でも暑苦しく感じない。
彼女はよく自分の髪の毛を触っている。あんなに綺麗な髪をしていたら触りたくなる気持ちもわかる。
私も彼女の髪の毛を触ってみたい、それができなくてもどうにかして仲良くなりたいと思っていた。
小さい頃にお姉ちゃんから教えてもらったおまじないがあった。
「画用紙に気になる人の髪を三本入れて飛ばすと、その人との距離が縮まる」というもの。
安原さんと仲良くなりたい私は試してみることにした。

70cmを超える長い髪の持ち主はクラスで一人しかいない。
床に落ちていたら確実に彼女のだとわかるはずだ。

放課後、人の少なくなった教室で決行した。
みんな友達とのおしゃべりに夢中でこちらを気にしていない。
私は安原さんの机の近くでわざと消しゴムを落とした。
急いでしゃがみ込んで消しゴムを拾いつつ、床を確認する。
すると、黒くて細長い髪の毛が……大量に落ちていた。
一本や二本どころではない、十本近くはあったと思う。
不思議に思ったけれどその場で考える暇もなく、私は怪しまれる前にその髪の毛を全部拾って持っていたティッシュで包み、ポケットに押し込んだ。

家に帰る途中で河原に立ち寄った。ティッシュを開けて数えて見ると、八本も髪の毛があった。おまじないに必要なのは三本だったけれど、強力な効果が出ることを期待して八本全部入れた。
川に向かって飛ばした飛行機は風に乗って遠くまで飛んだ。
落ちてから流されている様子を見たくなかったので着水する直前で帰り始めていた。

無事におまじないはできたけど、どうしてあんなにも髪の毛が落ちていたのか気になった。
翌日の授業中にずっと安原さんを見ていた。私も安原さんも教室の最後列だから振りかえらなくても彼女の様子を確認することができた。

彼女は左手で教科書を持ちながら右手で髪を触っている…ように見えたがよく見ると違う。
右手で髪を掴んで引っ張り、抜けた髪をそのまま床に落としていた。
彼女には抜毛癖があった。利き手で同じ部分ばかり引っ張っている。
もしかして、私がいつも髪を触る仕草も、抜きたい気持ちを我慢していたのかも知れない。

休み時間も次の授業の準備をするフリをしながら安原さんを見ていた。
相変わらず髪の毛を触っているが、抜くことはない。
授業中はみな前を向いていると思って油断しているのだろうか。
そんなことを考えていると、一人の男子が窓に近づいた。
「あちーな、開けようぜ」
男子が勢いよく窓を開けた瞬間に、強い風が入り込む。
「きゃっ!」
彼女の細長く綺麗な髪の毛がサラサラと風に流された。
その一瞬で見えてしまった。安原さんの右前頭部に円形のハゲている部分があることを。
慌てて髪の毛を押さえて周りをキョロキョロとする。
そこでバチっと視線が合ってしまった。
見た? と口パクで確認する安原さん。
私はドキドキしながら愛想笑いをすることしかできなかったが、明らかにおまじないの効果はあったみたいだ。

―白川湊太郎―

ショート小説コンテスト

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