『プレゼント~Merry X’mas~』緑川凛太郎-ショート小説コンテスト52

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『プレゼント~Merry X’mas~』

 終業式の日。僕は、佐野(さの)さんに「今夜、空いてますか?」と訊かれ、空いているです、と頷いた。すると、佐野さんは笑って「じゃ、今夜は俺に時間をください」と言った。

 そして、夜というか夕方。
 今日は十二月二十四日。
 一般的には恋人同士がイルミネーションを見たり、家族がサンタクロースの話をしていたりする日なわけで。
 僕は地元―藁谷町(わらやのまち)駅の駅前で、佐野さんを待っていた。
 真冬だということもあり、とてつもなく寒くて「ぺくちっ」と少し嚔(くしゃみ)が出た。
 ムートンコートの袖から少し手を出して、息を吐き出して手を擦る。
――佐野さん、まだかな。
 と、思いながらぼんやりと、駅で待っていた。

 少しすると、佐野さんが「遅れてすまないっ」と走ってきた。
 僕は「いいえ」と言い、佐野さんを見る(佐野さんは僕よりうんと背が高いから、見上げるという形になる)
「来てくれたから良いです」
「っ」
「? どうしたです?」
「何でもない! えっと、行きますよ! 川原(かわはら)さん」
 佐野さんは僕の手を引き、駅員さんに「東京まで」と伝え、駅員さんから切符を二枚貰う。
「川原さん、絶対にはぐれないでくださいよ?」
「じゃあ、ずっと手を放さないでくださいです」
「当たり前じゃ」
 佐野さんはそう言って、少し強く僕の手を繋ぐ。
 それがちょっと嬉しくて、僕は笑う。
「まだ大丈夫ですよ、佐野さん」
「俺が繋ぎたいから、繋いでいるの」
「何それ」
 ぷっと笑い、僕たちは乗車した。

 電車に揺られて、三十分。
 慣れない自動改札機を通って、僕は東京に来た。
 たくさんの人が忙しそうに歩いている中、僕は立ち止まってぼんやりとしていた。
 僕のいる町が田舎であることを、ここに来て改めて知った。
――酔ってしまいそうだ。
 と思っていると、走ってきたサラリーマンが僕にぶつかる。
「ちっ。立ち止まってんじゃねえよ!」
「あ、えっと。ごめんなさ――」
 僕が謝ろうとすると、佐野さんがサラリーマンを睨む。
「はあ゛ん!? んだ、てめえ!!」
「んだよ、ヤンキー。こっちは急いでんだよ」
「ヤンキーじゃねえわ。てか、川原さんにぶつかったろ。謝れや!」
「人混みん中で立ち止まってんのが悪ぃだろ!?」
「今、そんな混んでないわ! 道も空いていた。それに、あんた携帯見ながらだったろ? 謝れ、今すぐ」
「~~~」
 サラリーマンはイライラしながら、僕に「すまなかった」と言い、自動改札機を通って行った。
「えっと、僕は大丈夫です」
「大丈夫じゃないでしょ。まあまあな勢いだったんだ。痛かったろ」
「です…」
 痛かったのは事実だけど、そこまで痛くない。
 骨は折れていないと思うし。
 それより、周りの目が気になる。
「佐野さん、あの――」
「ほら、行きますよ」
 佐野さんは僕の手を引く。
「今日が終わってしまう前に、やっておきたいことがあるんだ」
「今日は、まだまだあるです」
「やっておきたいことがたくさんあるんだよ」
「です?」
「お楽しみ、て奴だから言わない」
「じゃ、とっっても楽しみにしているです」
 僕が笑うと、佐野さんは顔を少し赤らめる。
「そういうの、本当に卑怯」
「です?」
「あー、眼鏡持ってくれば良かった」
 佐野さんはため息を吐いて、僕の手をしっかりと繋いで歩き出した。

 駅から少し歩いた先。
 田舎者には似合わないようなお洒落なお店の前で、佐野さんは立ち止まった。
「夕飯は、ここで食べる」
「え? 高くないです?」
「ちょっと高いけど、今日は特別だから」
「……佐野さん、僕はそんなこと言われると期待してしまうですよ?」
「期待して良いんです。川原さん」
「で、です?」
「大体クリスマスイブの日にデートの誘いをしているんですよ? 期待して欲しいに決まっているじゃないですか」
「っ」
 本当に期待して良いのだろうか。
 でも、僕は――
「佐野さんの思うような人じゃないです。ダメダメな人間です」
「知ってます。そんなこと」
 佐野さんはため息混じりに言い、僕の手を引いて店の中に入る。
 小綺麗な内装はクリスマスカラーに染まっていて、店員さんの格好もサンタクロースで。
「凄いです…」
 と呟き、ボーッとしていると、佐野さんが「川原さん」と呼ぶ。
「席、こっちだから」
「あ、はいです!」
「慌てなくて良いよ、もう」
「で、でも」
 と、少し走って佐野さんのところに行こうとすると、グラッと僕はバランスを崩す。
――倒れるっ!
 と思ったが、佐野さんが「ほらあ」と支えてくれた。
「ありがと…です」
 僕がお礼を言うと、佐野さんは頷く。
「どういたしまして」
「……佐野さんって、優しいですよね。だから――」
 だから、僕はあなたのことをますます好きになってしまう。
 そう言いかけて、僕はやめた。佐野さんは「ん?」と僕を見たけど、僕は「何でもないですっ」と言って話を終わらせた。
――好きだなんて言ったら、迷惑に決まっている。
 男が男を好きだなんて。
 そんなの気持ちが悪いでしょ?
「…………」
 何で、僕は好きになってしまったのだろう。
 佐野さんは優しいし、カッコいい。
 誰にでも、だ。
 当然、佐野さんのことを好きだと言う女性はいるだろう。
 佐野さんだって、好きな女性はいるだろう。
 なのに、どうして僕を誘ったのだろう。
 どうして、こんなデートみたいなことを――
「川原さん!」
「は、はいです!」
 怒鳴るような声で呼ばれ、僕はビクッとして返事をした。
 そして佐野さんを見ると、彼は少し悲しそうな顔をしていた。
「さ、佐野さん?」
「……俺が誘ったの嫌でした? 本当は別の人といたかったとか? 断ると俺が可哀想だから、頷いてくれた? もしそうだったら、今すぐ帰りましょう。途中まで送りますから」
「ち、違うです!」
「じゃあ、何で! そんなつまらなさそうな顔をするんですか!? 俺はあんたにそんな顔をしてほしかった訳じゃない!!」
「……僕もよくわからないです! どうして、誘ってくれたです!? こんなに優しくしてくれるのは、何でです!? 佐野さんは、もう少し僕の気持ちとか考えてほしいです!!!」
 違う。
 こんなことを言いたいんじゃない。
 やめるんだ、僕。
 佐野さんが困ってるじゃないか。
「これ以上優しくしないでです! 苦しいです!!」
 何で泣いてるんだ、僕。
 それに、次の台詞を言ったら――
「これ以上好きにさせないでです!!」
「川原さん……?」
「っ、僕、帰ります」
 訳がわからなくなり、僕は佐野さんから逃げるように、その場を去ろうとした。
 が、その僕の手を佐野さんは「待って」と少し強く引いた。
 驚いて、僕は振り向く。
「何です」
「泣いてる川原さんを放っておくなんて、俺にはできないよ」
「……意味わからないです」
「わかるでしょ? 俺が言いたいこととか」
「わかるわけないです。僕はあなたではないですから」
「……でも、わかるでしょ?」
「わからないって、言ってるです」
「じゃあ、言う」
 佐野さんは僕を見て、はっきりと言う。
「俺は川原さんのことが好きだ」
「です?」
「恋愛とか、よくわかんないけどさ。俺は川原さんのことが好き。川原さんの笑顔が好き。川原さんの怒るとき、ちょっと頬を膨らますのとか可愛いって思う。今日だって、川原さんに喜んでもらいたくて、一ヶ月前から店を予約した」
 つーか、と佐野さんは言う。
「俺は川原さんだから、こんなにするんだよ? 誰にでも優しい訳じゃないよ? むしろ、優しくなんかないから。川原さんだけが特別なんだよ?」
「……僕のどこがそんなに良いです?」
「全部。俺にムカついて殴ろうとするけど、背が足りなくてピョンピョン跳ねて殴ろうとするところとか。るんるん気分のとき、本当にるんるん言いながら歩いたりしてるところとか。外見で言えば、もちもちした白い肌。髪を染めたことが一切無いような黒髪。夕焼けのように美しい瞳。全部好き」
「意味…わからないです」
「わからなくて良いよ、わかろうとしてくれれば」
「わけわかんないです!」
 だって、僕は…
 僕は……――
「ええい、面倒じゃ!」
 佐野さんはそう言って僕を抱きしめる。
「恋人になろうとか言ってない。きっと、あなたはそれを望まないだろうからね。無理矢理やるつもりなんてないよ。俺はさ、あなたにだけは優しい良い男でいたいから」
「…………」
「ただ、俺はあなたに幸せになってほしいんだ。その幸せに俺がいたら良いな、て柄にもなく思うんだ」
「佐野さん…」
「はい」
「苦しいです。窒息死しそうです」
「はあ゛ん? あ、悪い」
 佐野さんはパッと僕を放し、申し訳なさそうに小さく笑う。
「俺、やっぱりあなたがいるとダメだわ」
「です?」
「あなた中心に動いてしまう。俺らしくないや」
「わからないです。僕は僕で、あなたにいつも振り回されている感じです」
「んなことないよ」
 佐野さんは僕の手を引きながら、席に着く。
「俺の方が何億倍もあなたに振り回されている」
「です…」
「でも、嫌な気は一切しないんです」
 席に着くと、佐野さんは僕を見てニコッと笑う。
「きっと、これを恋とか言う奴なんだと思うんす」
「………」
「って言うのが、俺の気持ち。川原さんの気持ちは今すぐ聞こうとかは思っていませんよ。こういうのって、その場凌ぎの言葉で片付けるのは、お互い良くないでしょ?」
「……僕もそう思うです」
 だから、今は言えない。
 気持ちは最初から変わらないけれど。
 言葉にしようとすると、上手くできなくなる。
――佐野さんが言ってくれたから、僕も言わないといけないのに。
 佐野さんの名前を呼ぶのも、上手くできない。
「でも、今日中に言うです。待っててです」
「いや、今日中じゃなくて良いよ? 俺は川原さんのためだったら、何億年でも待っていられるから」
「ふふっ。バカ言わないでです」
 僕は佐野さんの言葉に笑って、チラッと彼を見る。
「その前に死んじゃうです」
「死んでも、生まれ変わってさ。また、あなたに会いに行くさ」
「っ」
「そのくらい、俺は結構本気なんですよ」
「ありがとです」
 初めて、人にこんなに思われた気がする。
 それが好きな人に、て幸せかな。
 こんなに幸せで良いのかな。
「嬉しいです」
 あ、また涙が……。
 もう、僕って泣き虫かよ。
 三十手前の男が、こんなすぐに泣くなんて――
「たーく、あんたは泣き虫かよ」
 佐野さんは笑って、僕の頭を優しく撫でる。
「でも、そういうのも好きだ」
「意味わからないです」
「うん。俺もよくわからない」
「バカぁ」
 僕はそう言って泣いた。
 佐野さんは何も言わず、ただ僕の頭を撫でてくれた。

 食事を済ませて、お店を出て時計を見ると、そんなに時間がなかった。
 僕は佐野さんを見て「あの」と言う。
「今日が終わるまでにやっておきたいことって、何です?」
「ん? あ、まあそれはほぼ終わった。あと一個」
「です?」
「あと十秒」
 佐野さんはカウントダウンをする。
 それがゼロになったとき、街のイルミネーションが真っ白になった。
 それは、まるでホワイトクリスマスのようで。
「綺麗です…」
 僕は呟いて、佐野さんを見る。
「こんなに綺麗なもの、初めてです! 佐野さん!!」
「うん。俺も、生で見たのは初めてかな」
「じゃあ、佐野さんの初めても一緒に体験できたってことですねっ」
「はあ゛ん? それって、どういう――んっ!?」
 僕は佐野さんの口を自分の口で塞いで、台詞を遮った。
 数秒間だけど、数分間のような。
 そんな感覚。
 僕は佐野さんから少し離れて、小さく笑ってみせる。
「僕なりの返事です。佐野さん」
「へ…?」
「好きです、ずっと前から。出逢ったときから、あなたに恋をしていたです」
「あ…」
「でも、佐野さん」
 僕は、あなたと恋人にはなれないです。
 だって、僕は――
「好き合っている、というだけで終わりにしませんか? この話は」
「全然良いよ。充分だ」
 佐野さんは満足げに笑い、僕の手を引く。
「よし、じゃあ帰ろうか」
「ですっ」
「今日は良い酒が飲めそう」
「飲み過ぎはダメです~」
「今日くらい許してよ、ハニー」
「は、ハニーとかやめるです!」
「はっはっはっ。川原さん可愛い~」
「からかうな! です!!」
「あ、川原さん」
 佐野さんは思い出したかのように言う。
「Merry X’mas」
「メリークリスマスです」
 僕が笑って言うと、佐野さんは恥ずかしそうに笑って、僕の手を恋人繋ぎで繋ぐ。
「恋人じゃないとダメって話はないからな、良いでしょ?」
「です」
 僕は頷いた。
 恋人には、今はなれないけれど。
 それでも、一緒にいられるから良いんだ。
 お互い好き合っている。
 それだけで良しとしないといけない。
 もっと一緒にいたいけど――
「寒いっすねぇ」
「です? です」
「川原さん、身体が弱いんだから気を付けてね」
「です」
「『です』以外も話そうや」
「ですです」
「あー、もう! 可愛いなあ」
「そんなことないです」
 でも、今くらいの距離感とかで、僕は充分幸せだし、幸せすぎる。
 そんな気がする。

―緑川凛太郎―

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