『みかん~甘くて酸っぱい~』緑川凛太郎-ショート小説コンテスト53

*ぶろぐ村に参加してます!
にほんブログ村 子育てブログ パパの育児へ にほんブログ村 小説ブログへ

『みかん~甘くて酸っぱい~』

 愁哉(しゅうや)は、この時期になると炬燵(こたつ)に入り、蜜柑(みかん)を食べる。相変わらず裸族だから、全裸で、だけど。
 そんな愁哉を僕は見ながら、隙を見て蜜柑をいただく。
 愁哉はいつも蜜柑の皮を剥く前、蜜柑を揉んでいる。そして、白い筋のようなものを綺麗に取り、一粒ずつ美味しそうに食べる。
「その白いのは、美味しくないの?」
 愁哉の剥いた蜜柑を食べながら訊くと、愁哉は「食っていやがる」とため息を吐き、僕を見る。
「その白いのは、何となく取っているんだよ。美味しくないと言えば美味しくないけれど、食べられないわけではないよ」
「ふーん」
「ま、俺はあれを食べると噎せるというか咽喉に突っかかる感覚があるから、食べないだけだよ」
「年寄りみたいだ」
「バーカ。俺は三十四歳だぞ~」
「嘘だー。神呪(かみの)さんが言ってたよ? 『社長は、三十世紀は生きてる』て」
「あいつ、虚言癖あるよ?」
「え、嘘なの? 神呪さん、僕に嘘を吐いたの?」
「さあね」
 愁哉は笑い、テレビを見る。
 テレビは、愁哉が好きな小動物(特に兎)特集をしていて、愁哉は楽しそうにそれを見ている。
「兎は良いなあ。可愛いよ。もふもふだよお」
「……愁哉、蜜柑」
「自分で剥きなさい。俺は兎を見るのに忙しい」
「ちぇっ」
 僕は蜜柑に手を伸ばし、それを剥く。
 ひょいっと食べると、少し酸っぱかった。
「愁哉、蜜柑が酸っぱい」
「お前、蜜柑揉んだか?」
「揉んでない」
「それだよ、原因」
「?」
「蜜柑はな、こうやって揉まねえと、甘味が出ねえんだよ」
「へえ」
「ま、でもたまには酸っぱいのも良いもんさ」
 愁哉は僕が剥いた蜜柑を食べる。
「確かに、俺のより酸っぱいなあ。でも、他のより元々甘めなのかもしれん」
「そうなの?」
「ああ、他はこれより酸っぱいよ」
「あまり好きじゃないや、酸っぱいの」
「そうか。なら、さっき言った揉んでから剥くというのを忘れないようにな」
「はーい」
 僕は返事をして、蜜柑を取り、愁哉の見よう見まねで揉んでから、剥いて、食べてみた。
 それは、少し甘くて、美味しかった。
 愁哉にそれを伝えようと、愁哉を見るとなぜか泣きそうな顔で僕を見ていた。
「愁哉?」
 僕が名前を呼ぶと、愁哉は「ごめん」と笑う。
「あと何回、こうやってお前の隣にいられるかを考えたら、泣きそうになった」
「……」
「人の一生は短いからね。瞬きしたら終わってしまいそうだよ」
「……僕は少し丈夫だから、そんなすぐに死んだりしないよ」
「……うん。そうだね」
 ありがと、と愁哉は僕の頭を撫でながら炬燵から出る。
「蜜柑、全部食べて良いからね」
「あ、うん。愁哉、ちょっと待って」
「ん?」
「あのね、その」
 僕は愁哉をまっすぐ見る。
「いい加減、服を着てくれる? 見ているこちらが寒いし、愁哉、風邪を引きやすいじゃん」
「うーん。嫌だ」
「いや、ふざけんなっ」
 僕は炬燵から出て、愁哉を追う。
「服着ろ! このバカ!!」
「こーとわーるぅ」
 愁哉は笑いながら僕から逃げる。
 楽しそうなのは良いけれど、本当にいい加減にしてほしかった。

―緑川凛太郎―

ショート小説コンテスト

*ぶろぐ村に参加してます!
にほんブログ村 子育てブログ パパの育児へ にほんブログ村 小説ブログへ
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA