『みかん~生き方~』白川湊太郎-ショート小説コンテスト53



『みかん~生き方~』

みかんにとっての晴れ舞台ってどこなんだろう。
そんなことを考えながら箱詰めされた私は出荷された。
「腐らないと良いけどね」
近くのみかんが心配そうに話しかけてきた。
私は、そうだね、としか答えることができなかった。

出荷された私はスーパーに並べられた。
どうやら一年が終わりを迎える時期らしく、スーパーはたくさんの人で溢れていた。
「あら、あなたはどちらの出身なの?」
声のした方を確認すると、隣の売り場のみかんが話しかけてきた。
「熊本ですけど」
「あら、マイナーねえ。やっぱりみかんと言えば私たち和歌山だわ」
「はあ」
「まあ、あなたも買ってもらえると良いわね」
「どうも」
生まれなど今さら変えられるわけでもない。
私は気にしないように努めた。
みかんの生産量はずっと和歌山、愛媛、静岡の三県が上位を占めている。
私の出身である熊本もそれらに次いで多いけれど、その差は大きい。
でも熊本のみかんだって美味しいはずだ。
先に買われていった和歌山のみかんをなるべく見ないように私はじっと待った。

嫌味こそ言われたけれど、私達熊本のみかんも無事に買ってもらえた。
「和歌山のみかんと違って、私達がその日に売れることって少ないらしいよ」
どこ由来の情報か知らないが、同じネットに入ったみかんが教えてくれた。
「私はゼリーになってみたいな」
「ジャムもいいねえ」
「だけどやっぱり、こたつの上が定番だよ」
家に着くまでの間に、他のみかん達は思い思いの場所を口にする。
そんなことなど気にしないフリをしながら、私自身も内心ドキドキしていた。
こたつの上に置かれたカゴの中で一生を終えるような、平凡な生き方でも良いけれど、少しくらいは目立ってみたかった。
「お母さん、このみかんはどこに置いておけばいいの?」
女の子が多くのみかんの中から私一つを選んで取り出した。
こたつの上か、デザートになるのか、それとも……
「あ、それはあそこよ」

「あけましておめでとう」
「はい、おめでとう」
他のみかん達はこたつの上に置かれたカゴの中から羨ましそうにこちらを見ている。
みんなから一人離れた私は多少恥かしがりながら、白く大きなお餅の上に乗って、新しい年の訪れを表していた。

―白川湊太郎―

ショート小説コンテスト

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