『みかん~リスクとリターン~』黒川洸太郎-ショート小説コンテスト53



『みかん~リスクとリターン~』

机の上にはパソコンのディスプレイが6台並んでおり、キーボードとマウスと少しの食料を備蓄している。
株価が下がったところを買う逆ばりスタイルでここ5年は稼げてきたが、最近は資産が目減りしている。
インターネットカジノのサイトに行っては細かい勝利を積み重ね、気が大きくなってきたところで負けている。
これの繰り返しだ。

フリーの投資家になった5年前、世の中は空前の株ブームだった。
僕は当時サラリーマンをやりつつ片手間で投資していたら月に100万円程当たり前のように稼いでいた。
サラリーマンの年収が400万、株で1200万、稼ぐ内に、助平根性が生まれてきた。
『もっと、株に時間を割けば年収3000万いくのではないだろうか。』こんな塩梅だ。
これが僕の人生を堕落に追いやった考え方の第一歩だった。
そして会社は僕をひきとめることは全く無かった。

『ソードフィッシュ』という映画に憧れて、ディスプレイを6台並べてみると、投資家っぽくて高揚した。
とにかく、買っては売りを繰り返し、株だけでなくFXや不動産、アドセンス等も積極的に取り入れた。
最初の3年間で資産は5倍に膨れ上がり、盆と正月は家族を連れ海外旅行に行き豪遊した。
自分を制限するものが無いので、とにかく儲かった金は次の投資につぎ込み倍々ゲームのようにお金を稼ぐことに、その時は何の違和感もなかった。

リスクとリターンは突然やってくる。
スポーツカジノにて、勝率1.003倍の絶対勝てる試合があった。
それは野球の国際試合で明らかに戦力の差がある試合だった。
10億の資産のうち、5億をつぎ込めば、リターンは150万、一晩酒を飲むには十分な資金だ。
何の疑いもなくベットしたその試合が世紀の番狂わせを起こし、一晩で僕は5億を失った。

その時、冷静になればまだ5億あるからコツコツやればいいと思えば良かった。
でも人の心はそんな単純なものではなく、早く10億に戻さないと不安になるようだ。
僕は躍起になり、投資のスピードを上げ、リターンをより多く取ろうと、リスクの大きい投資をしていた。

結果、世界同時不況という政治の不安定も重なり僕の資産は1000万円まで減っていた。
生活水準が極端にあがり、金が目当てで結婚した妻と、この生活が当たり前に続くと思っている子ども達。
固定資産税が50万もするこの家をどう維持していけばいいのだろう。

『腐ったミカンの方程式』を思い出し、これからどんどん腐っていく家庭は損切りできない。

―黒川洸太郎―

ショート小説コンテスト

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