『電柱~のろい~』緑川凛太郎-ショート小説コンテスト54

『電柱~のろい~』

「ひとーつ、ふたーつ、みーっつ、よーっつ」
 弟の美鶴(みつる)は、僕と手を繋ぎながら一本ずつ電柱を数える。
 僕はそれをうるさいな、と思いながらも一応は聞いてあげている。
 美鶴は十まで数えたあと、数えなくなる。
 わざとなのか、数えられないのか。
 僕にはわからない。
 気にはなっているのだ。
 毎日毎日、家から学校や病院、スーパーなどまでの間の電柱を数えていて。
 いつも十から先は数えなくて。
「なあ、美鶴」
 僕は美鶴に訊く。
「何で、十から先は数えないんだ?」
「にぃ、それはね」
「うん」
「十から先がわからないんだ」
「……学校で習わなかった?」
「言ってたと思う。でも、うまく聞こえなかった」
「……そうか」
 僕はぎゅっと手が離れないように、少し強く握る。
「気づけなくて悪かった」
「ううん。ねえ、にぃ」
「何?」
「どうして、にぃは悲しそうな顔をしているの?」
「っ!」
 美鶴に言われるまで、気づかなかった。
 表情に出さないようにしていたのにな。
「それはね、悔しいからだよ。美鶴のこと、見ているようで見ていなかったから」
「そうなんだ。にぃ、美鶴は別に怒ったりしていないよ」
「……そう」
「だって、にぃは美鶴のこと、大事にしてくれてたもん」
「…………そうかな。僕は弟を守る立派な兄を演じていただけかもしれないよ」
「そんなことないって」
「あるよ」
「ないよ」
「お前に何がわかるんだよ!」
 僕は美鶴から手を離す。
 放して、しまった。
「お前なんかに、僕の気持ちがわかるか!? わかるわけがないだろ!」
「…………わかるよ」
 美鶴は僕を見ながら言う。
「だって、今だって美鶴のことを思ってくれるじゃないか」
「っ」
「美鶴は、もう□□□□□□□□」
 バイバイ、と小さく手を振って、美鶴は夕焼けの空に消えた。

Χ

 目を覚まし、ため息を吐く。
 日めくりカレンダーを見て、今日が休みということを確認。
 そして、僕は隣にいる幼馴染みで親友の千歳(ちとせ)を見る。
「千歳、今日はどこに行く?」
「奈穂(なほ)、今日は家でゆっくりしよう」
「そう?」
「うん。あ、でもスーパーで買い物をしようよ」
「そういえば、昨日で冷蔵庫の中身はなくなってしまったよね。それは買わないと」
 僕は、まだ少しぼんやりする頭で、冷蔵庫の中を確認する。
「やっぱりないや」
「うん」
「僕は少し着替えるけれど、千歳はどうする?」
「奈穂が着替えるなら、僕も着替えるよ」
「わかった。ちょっと待っててね」
 千歳はうまく着替えができないから、僕がやってあげないと。
 千歳は待つことが苦手だから、あまり待たせないでやらないとな。
 そう思いながら、自分の着替えを済ませ、千歳の着替えを手伝う。
「包帯、取れそうだね。綺麗なの巻いてあげるから」
「うん」
「……千歳はさ、どこかに行ったりしないよね」
 ふと口から出てきた言葉に、僕自身驚いた。
 きっと、あんな夢を見たからだ。
「あ、ごめんね。忘れて、今のは」
 少し慌てて言うと、千歳は「行かないよ」と言う。
「僕はずっと奈穂の隣にいるよ」
「……」
「だから、奈穂もどこにも行かないでね」
「……うん。行かないよ」
 行けない。
 だって、僕には――
 なんて、思うだけにしよう。
「よし」
 出掛ける支度はできた。
 僕は千歳と手を繋いで、近所のスーパーまで歩く。
 その道中。
 千歳は電柱を「ひとーつ、ふたーつ、みーっつ、よーっつ」と数える。
 美鶴と同じく、千歳も十から先は数えない。
 数えられない。
――何で…?
 どうして?
 と思っていると、千歳が「奈穂」と僕を見る。
「手を離したら、放したらいけないよ」
「え」
 千歳に言われて気づいた。
 先程まで繋いでいた手が離れていることに。
「あ、ごめん」
「うん。みーちゃんみたいに、僕もどこかに消えてしまうかもしれないからね」
「ちと…せ……?」
 何を……?
 と、千歳を見ると。
 千歳はニコッと笑って、言う。
「   」

―緑川凛太郎―

ショート小説コンテスト

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