『涙~採取~』白川湊太郎-ショート小説コンテスト57

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『涙~採取~』

恋人に振られて、大きなビルの前で泣いている私。
声を押し殺しながらただただ涙を流していました。
ほとんどの人はこちらに気づくこともなく通りすぎていき、
たまに気づいた人でさえも知らぬフリをしています。
まあ、優しい誰かに話しかけられても「構わないでください」としか答えるつもりでしたが……
そんな私の前に一人の男性が現れました。
どこかのパーティの帰りでしょうか、恐らくは歳は40過ぎ。
素敵なタキシードを着こなして、右手にはステッキを持っています。
「お嬢さん、泣いているのですか?」
「はい…」
この後に続く言葉は「大丈夫ですか?」だと思っていましたので、
「構わないでください」と答える準備をしていたのですが、男性が発した言葉は私の想像外のものでした。
「よかったら、あなたの涙を頂けませんか?」
「えっ!?」
私はあまりの驚きに涙も止まってしまいました。
「申し遅れました。私、こういう者です」
男性に差し出された名刺には”結晶屋”の文字が。
「これは?」
「お客様から頂いた涙を結晶にして差し上げるのです」
「涙を結晶に?」
私はよく意味がわかりませんでした。
「おそらくこんなところで泣いていたあなたには悲しいことがあったのでしょう」
「はい、まあ」
「その気持ちを結晶にして、保管するのです」
私はなんだか不思議な人だなあ、と思いながら続きを聴きました。
「こちらが涙の結晶のサンプルになります」
そう言って男性がポケットから取り出した透明なガラスの小瓶の中には、2㎜ほどの小さな結晶が入っていました。
「綺麗、ですね」
「これは私の涙の結晶なんですけどね、私のようなおじさんでも結晶は綺麗なんですよ」
男性はハニカミながら笑っていました。
「あの、私の涙の結晶を作ってください」
私は決心しました。
今回のこの恋でたくさんの事を学びました。
悲しみを私自身から切り離す作業、とでも言いましょうか?
その思い出を形にしておくことに決めました。
「ありがとうございます、では」
言うやいなや男性はステッキを分解して、中からスポイトを取り出して、私の目尻に当てました。
「こちらの名刺の場所に1週間後いらしてください、お代もそのときで構いませんから」
男性は姿勢を正したまま早歩きで帰っていきました。
「結晶、楽しみだな……」
新しい私に変わる決意ができた私は、泣くのをやめて家に帰りました。

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俺は今日も仕事を終えてアパートへ帰ってきた。
綺麗なタキシードを着ているが住んでいるとは思えないボロアパートだ。
部屋に入るとタキシードを脱ぎ捨てて、ステッキを持ったままパソコンの前に立った。
起動させて、自分のサイトを開く。
「〇月×日△時、□□ビル前にて泣いているところを発見。」
「見た目:20代、OL。」
「5000円/5ml」
サイトにアップしてから1時間もしない間に今夜の女の涙は売れてしまった。
世の中には思いもよらないところに需要があったりする。
その中でも”女性の涙が欲しい男”はこの世界にかなりいるようだ。
涙は、女性の使用済みの下着で興奮するようなものだろうか。
なんにせよ、俺は儲けることができればそれでよかった。

―白川湊太郎―

ショート小説コンテスト

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