『涙~ちゃんとした涙~』黒川洸太郎-ショート小説コンテスト57

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『涙~ちゃんとした涙~』

いつも笑っている彼女が涙を流していた。
僕はどうしたの?と聞くと彼女はなんでもないよと言う。

僕は「なんでもないことない。泣いてるじゃないか。」と問い詰めることが優しさなのか
「いつでも相談にのるからね」と問い詰めないことが優しさなのかを迷い、後者を選択した。

後日彼女はいつものように笑っていた。僕は少し安心して遠くから彼女を見ていた。
すると後方から背の高い男性がやってきて親しげに会話をする。僕は少し嫌な気持ちになった。
知り合いの知り合いから聴く情報によると、どうも最近2人は付き合い始めたらしい。
それがあの涙の前なのか後なのか、僕はそのことが気がかりだった。

僕は寝ても覚めても彼女のことが頭から離れず、あの日僕が前者を選択していればどうなってたのだろうと考える。
そっと寄り添い、泣き終わるまで近くにいてあげることも出来たし、ご飯にでも連れて行ってあげたのではないだろうか。そんな気持ちの悪い妄想まで繰り返す。
ひょっとするとあの長身の男が彼女の涙を拭うことがきっかけで仲良くなったのではないだろうか。僕は知り合いに知り合いの知り合いの名前を聴き、訪ねてみることにした。

知り合いの知り合いは近くのカフェで友達と談笑していた。
僕は勇気を出して「すみませんA君ですか?」と尋ねる。A君は「あーBの知り合いだね。話きいてるよ」と言ってくれ僕は安心した。A君は良い人で、友達の輪からすっと離れると「あっちいこっか」と外のテラスへ誘ってくれた。

「彼女のことが好きなんだって?」と頭の回転が早いA君はいきなり核心を付いてくる。
「はい。彼女は付き合ってるんですか?」と問うと、3年前から長身の男と付き合っている事実を聴かされた。その後どんな会話をしたかは今となっては全く覚えていない。
僕はショックで気が動転していたのか「彼女泣いてたんですけど」とA君にとってどうでもいいことを言うと、「へー。泣くときもあるんじゃないの。人間なんだし。」と言っていた。涙ってそんなもんなのかなと僕は内心疑ったが、付き合ってくれたA君に礼を言いその場を立ち去る。
するとA君は「そういえば」と切り出すものだから、僕は振り返りA君を虚ろな目で見た。
「なんか別れたいとかあいつ言ってたな。それで彼女が泣いたとか泣いてないとか言ってた気がするよ。」

僕は当ても無く構内を歩く。授業があったのか無かったのかも分からない。
涙は出ない。その理由を考えると、僕は何もしていないからだ。悔しさも思いも行動も何もかもが気持ち悪い。
下校時、電車に乗っていると急に嗚咽がした。僕は嗚咽により少し涙が出る。窓に映る情けない顔を見ながら次はちゃんとした涙を流したいと思った。

―黒川洸太郎―

ショート小説コンテスト

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