『カーテン~内緒で~』白川湊太郎-ショート小説コンテスト58

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『カーテン~内緒で~』

何だかんだで、僕と川中さんは互いの家を行き来する仲になった。
 事の発端は、僕があまりにも色々なことができないからなのだけれど。
 川中さんは、そんな僕を「仕方ないですね」とため息混じりに言い、優しく家に入れてくれる。
 今日は珍しく川中さんから「家に来て」と言われ、少しルンラルンラしながら川中さんの家に向かっている。
 僕の家から、歩いて十五分くらい。
 走ったら五分。
「スキップしながら行くか」
 僕はスキップしながら川中さんの家の前まで行き「かーわちさーーん」と川中さんを呼ぶ。
「かーーーーーわちさーーーーーーーーーーーーん」
「うっるせえな! 近所迷惑だろうが!」
 川中さんは扉を思いっきり開いて(蹴飛ばして)僕に言う。
「……いらっしゃい、佐々塚さん。入って」
「お邪魔します~」
 僕は丁寧に靴を脱ぎ、居間に行く。
「あれ? 川中さん、カーテンはどうしたの?」
 川中さんの家は基本白で揃えている。
 壁も天井も家具も何もかも。
 白が好きなのかな、と思っていたけれど。
 別にそうではないらしい。
 全てを白にすると、生活感が出なくて良いから、と話していたけれど。
 僕にはよくわからなかったし、わかったとて、と思った。
 で、そんな川中さんの家。
 真っ白な家には、当然真っ白なカーテンがあるのだけれど。
 そのカーテンがないのである。
「川中さん、ついに直射日光大丈夫になったの!?」
「なってないです。汚れてしまったので買い換えようかと」
「ほー。で、それで僕を呼んだの?」
「そうです。佐々塚さんの好きなカーテンにしようと思って」
「ふーん」
 と、一回頷いた後で「ぬ!?」と僕は川中さんを見る。
「どういうことっすかね!?」
「? そのままの意味ですよ」
「いやいやいや! 確かに、僕と君はこうして互いの家を行き来する仲だけれども!」
「嫌でしたか? なら、また真っ白なカーテンにしよう」
「嫌ではない! 嫌ではないけれど、驚いている!!」
「? 好きな人の好きなものを知りたいし、それで身の回りを溢れかえしたいと思うのは当たり前でしょ? 馬鹿なこと言わないで」
 川中さんは僕から少し離れたところで部屋着から外着に着替える。
「そんなことより、佐々塚さんの家はどのようなカーテンでしたっけ? 何度か行ってますが、基本雨戸が閉まっているので知らないのですが」
「ああ、僕は極力外に家の中を見せたくないというか。日光を遮断したいというか。そういうのだから、雨戸なんですよね。てか、カーテンってないかも」
「カーテンないんですか? てか、日光を遮断したいからって雨戸を常に閉めるのやめてくださいよ。怖いです」
「カーテンはないなあ」
 僕は、カーテンのない川中さんの家の窓を見る。
「レースのカーテンとか良いと思うよ。川中さんに似合うし」
「レースですかあ。考えたことなかったなあ」
 川中さんはうんうん、と頷く。
「では、レースのカーテンを買いに行きましょう」
「え? 僕も行くの?」
「行くに決まってるでしょ? あなたの好きなものにしようって思っているんだから」
「うわあ、初の共同作業じゃん」
「違う。……あの、唐突に馬鹿になるのやめてくれません?」
「いや、僕は馬鹿ではないよ?」
「あー、自覚がないやつだ。もー」
「?」
「小首を傾げないで。可愛いから」
「はあ」
 可愛いとはよく言われるけれど。
 軽く睨まれて言われるのは初だった。
――うーん、どうしたものか。
 と、考えていると、川中さんが「ほら」と僕の手を引く。
「遅くなってしまうから、早く行きましょう」
「あ、うん。そうだね」
 僕は川中さんに手を引かれながら、カーテンを買いに外に出た。
 そのとき、一瞬だけど。
 川中さんの部屋から、血の匂いがした。

ペンネーム 緑川凛太郎教室の外から、佳代さんが入ってきた。
「ねえ、聞いてよ!」
「どうしたの佳代?」
「いいから、入って」
彼女は上履きからパタパタ音をさせながら読書している俺の前を通り過ぎ、クラスメイトの女子を引き連れてカーテンの向こう側へ入っていった。
「……で……だって!」
「ええっ!」
カーテンは彼女たちの上半身を隠す、彼女たちの声も隠す。二人の視界には布以外見えていないだろう。
俺は手に持っていた本から目線を少しだけ外して窓の方を見た……カーテンの下から佳代さんの白いふくらはぎが出ている。
バレー部に所属する彼女の鍛えられたふくらはぎ、練習中に何度も跳躍を繰り返して筋肉の膨隆部がはっきりとわかった。
女子は内緒話が好きだ。誰もいない、誰にも聞かれない場所で秘密を教え合うことにより女子同士の仲はさらに深まるのだろう。
だが俺にとってはそんなことどうでも良い。佳代さんが誰と語ろうとも、語らずとも構わない。佳代さんがカーテンの向こう側へ入ってくれたら、俺はこっそりと彼女のふくらはぎを好きなだけ見ることができる。

本当は部活中のふくらはぎも見たかった。
手っ取り早いのはマネージャーになることだろうけど、男子の俺は気味悪がられて拒否されるだろう。試しに男子バレー部に入部したが、練習についていけず3日で辞めてしまった。
もしもマネージャーになれたら……佳代さんが足を攣った場合などはマネージャー俺がストレッチを行っても不思議ではないだろう、いや、俺がストレッチをすべきだ。これだけ佳代さんのふくらはぎを気にしている男は他にいないのだから。できることならストレッチだけでなく、ふくらはぎに直接触れたい。マッサージという名目で佳代さんのふくらはぎを揉みほぐしたい。

「えっ、うわっ、鹿島が読書してるフリして、佳代の足を見てる!」
傍にいた女子が大声で叫んだ。どうやら俺はいつのまにかこっそり見るだけでは我慢できず、ふくらはぎを凝視していたようだ。
騒ぎが大きくなり、カーテンの向こう側から佳代さんも顔を覗かせた。頭と足だけがカーテンから出ている様子はてるてる坊主のようで、窮地に追い込まれている自分の状況も忘れて見惚れてしまっていた。
カーテンの向こう側に隠れた佳代さんに気づかれないからと油断していたのかもしれない。佳代さんに内緒で足を見ることはできていたが、同じ教室内のやつらからは丸わかりだったんだろう。
「鹿島、よくカーテンの方を見てたのは佳代の足が目的だったのかよ」
「なかなかにキモいね」
俺はただただ恥ずかしそうに俯いた。とぼけた様子をすれば良かったものを、これでは足を見ていたことを認めてしまうことになる。
隠れてしまいたいと思った。クラスメイトが視界に入らない場所に。
例えば、そう、カーテンの向こう側なんかに。

―白川湊太郎―

ショート小説コンテスト

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