『切符~選んで~』白川湊太郎-ショート小説コンテスト59

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『切符~選んで~』

目が覚めると部屋には私しかいなかった。
おーい、と呼んでも返事はない。
そうか、昨日は妻と喧嘩して、仲直りをしないまま寝てしまったんだった。
喧嘩の理由なんて些細なこと、俺は忘れてしまった。
スマートフォンを確認してみたが連絡はなかった。
その代わりに画面の上部にはニュースが表示されている。
なにやら最寄り駅近くの線路で事故があり、列車に遅れが出ているらしい。
事故があった駅を含めて、私の家の近くにはJR、地下鉄、私鉄と3つの駅があった。
どこか一つでも問題が生じるだけで、乗り換える人たちを巻き込み他二つの路線にも大きく影響を与えるだろう。

リビングも電気は点いておらず妻はいなかったが、その代わりテーブルの上に置き手紙が
『どれか一つだけ選んで開けてください。それ以外は開けないこと。ちゃんと迎えに来れるといいね』
見慣れた妻の字で書かれてある。知らないうちに自分からいなくなっておいて、ちゃんと迎えに来れるといいね、とはかなり偉そうだ。
起き手紙の傍には3つの封筒がある。
どれも同じ長方形の茶封筒で、しっかりと糊付けされた上からセロハンテープが貼られていた。
封筒に光を当ててみると、長方形の形が透けて見えた。
茶封筒よりも随分と小さい、指で摘まめる程の大きさで、少し硬かった。
3つとも確認してみたが、どれも同じ形のようだ。
私は封筒を一つ選んでビリビリと袋を破る。
中から出てきたのはJRの切符だった。最寄り駅から初乗りのものだ。
やはり、と私は思った。おそらく袋の中身はJR、地下鉄、私鉄それぞれの切符だろう。
この路線のどこかに乗って探せということか、無茶な女だ。
確率は三分の一、いや初乗り運賃で行ける駅は複数あるからそれ以上か。
とりあえず行ってみるしかない。
私は財布の中に切符を入れて家を出た。

駅は歩いて数分の距離にあった。
おそらく家を飛び出した妻も同じ道を歩いたのだろう。
ちょうど3つの駅の分かれ目に着いた。
私は財布から切符を取り出し確認してから、JRの駅の方向へ歩き始めた。

「あら、意外と早かったわね」
妻は簡単に見つかった。
JRの駅のホームにある待合室で、読書をしていた。
駅前のコンビニで買ったコーヒーを飲みながら、だ。
「それ飲んだら、一緒に帰ろうか」
「ええ、もちろん」
私が妻を見つけることができたので、私達は自然と仲直りができた。

しかし、もし私が他の封筒を開けていたらどうしたのか、
疑問に思ったので尋ねてみた。
すると妻はとても驚いた顔をしている。
「あら、本当に他の封筒は開けてないのね」
家に帰ってから確認すると、全ての封筒にJRの切符が。
なるほど、彼女は結局、私と仲直りしたかったのだな。

―白川湊太郎―

ショート小説コンテスト

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