『切符~嵌め方~』黒川洸太郎-ショート小説コンテスト59

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『切符~嵌め方~』

切符の端を折り曲げて改札に通すとどうなるかを僕は知っていた。
高校生の頃、友達と興味本位で試したことがあるからだ。
僕はこの知識を誰に教えるわけでもなく、何かに役に立つなんて思ってもいなかった。
だが、こいつだけは許せない。こんなに図々しい奴が平気で生きてる状況に僕は腹を立てていた。

まずそいつは降りる人が優先という暗黙のルールを破り、肩をぶつけながらも車内に入ってきた。
図体がでかく、態度もでかい。ずっとそうやって生きてきたのだろう。
電車内では「やばい奴が入ってきた」というピリッとした感覚が伝染する。
当然のように空いた席に腰をかけたヤバい奴は脚を組み、ガムをくちゃくちゃと噛んでいる。
よくもまぁ何も生みださず、何も出来ない奴がこんなにも大きい態度が出来るものだ。
電車内は混雑しているのにもかかわらず、奴の両脇の席だけが空いていた。

すると小学校低学年ぐらいの少年が何も知らず、奴の横に座った。
親は後で気が付いたみたいで、とりあえず最初は様子を見ていた。いや、車内の全員が様子を見ていたかもしれない。
少年は悪気もなく身体を捻って外を見たり落ち着かない雰囲気だった。
ヤバい奴が段々と少年を鬱陶しがっているのが伝わる。すると少年の手が不用意に奴の顔面に当たった。
親が一歩を踏み出すが少し遅かった。
奴は少年の肩をグッと掴み、床の方に突き飛ばした。「何さわっとんのじゃワレ!」電車内にこだまする。
親は「すいませんでした。」と言うが、奴は立ちあがり顔を近づけ「お前か親は!」と言い突き飛ばした。

僕はそれを遠くの方で観ている傍観者であることが腹立たしかった。
恐怖心で何も出来ない。動くことすらできない僕は、この図々しい奴の天下を下支えしている存在にすぎなかった。
何か天罰が下らないかぎり、こいつと他の人の人生はトントンにならないじゃないか。
僕が起こせる天罰。それは、高校生の頃に発明した切符の折り方だった。

僕は自分の降りるべき駅よりも、奴は早くに下車をした。
僕は内心ドキドキしながらも、切符の端を折り曲げ来るべき時に備える。
奴が電車から降り階段を上がる時、僕は奴の後方にそっと付き改札を通る時に少し小走りな形で奴を抜き去り、
折り曲げた切符を投入した。

すると僕自身は改札を普通に通ることが出来、奴は切符を入れたにもかかわらず改札のバーが閉じ通れなくなっていた。ピンポン!ピンポン!と改札が警戒音を出し、彼を捕まえた。
僕は小走りのまま知らない駅の知らない路地に入っていった。
何も出来ない僕は何かをした気持ちになり、何もない生活にスリルだけが残った。

―黒川洸太郎―

ショート小説コンテスト

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