『アルバム~回想~』緑川凛太郎-ショート小説コンテスト60

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『アルバム~回想~』

 火野(ひの)先生は、僕たちオカルト研究会の顧問である。
 昔、火事に遭って、右目の視力を失い、火傷を負ったため、包帯で顔の右を隠している。
 いつも、火野先生は笑っている。
 ニコニコしていて、優しい人。
 授業は面白いし、部活では少し離れたところで僕たちを見守ってくれている。
 そんな火野先生は、たまに懐かしそうに古いアルバムを開いて見ている。
 今日も、見ていた。
 何となく気になって「先生」と声をかけると。
 火野先生は、静かにアルバムを閉じて「ん?」と僕を見る。
「どうした? 左河(さかわ)くん」
「えっと……。先生がよく見ているそれって、いつのアルバムですか?」
「これかい?」
「はい。いつも、懐かしそうに見ているから……」
「ああ、見られていたのか」
 あはは、と火野先生は笑う。
「これは遠い昔のアルバムだよ」
「昔? えっと、先生が中学生とかの?」
「うーん、それよりももっと前かな」
 おいで、と火野先生は僕を呼ぶ。
 僕は火野先生の隣に座る。
「あれ、これ火野先生じゃない」
「うん。これはね、遠い遠い昔。先生の前世って感じかなあ」
「先生、前世の記憶ってあるんですか?」
「何となくね」
 火野先生は笑って、僕に話をしてくれた。

 濡羽色で長髪の縁の神様のこと。
 その神様の弟のこと。
 神様の弟と仲良しの青年のこと。
 猫のような呪術師のこと。
 その呪術師の良き理解者で、仲良しの青年のこと。
 幼児退行してしまった青年のこと。
 人に対してお節介が過ぎる精神科医のこと。
 人に愛され、人を愛した鬼の青年のこと。

 彼らの話をしているときの火野先生は、とっても優しい顔をしていた。
 その顔を見て、僕はなぜか懐かしい気持ちになってしまった。
――おかしいな。
 僕は彼らのことを知らないのに。
 なぜか懐かしくて。
 気づくと涙が出ていた。
「左河くん?」
 火野先生が心配そうに僕を見る。
「どうした? どこか痛い?」
「いや、その、懐かしくて……」
「…………」
「僕は彼らを知らない。けど、懐かしいと感じてしまった」
「左河くん……」
「わからないけど、彼らに会いたい。会えないのは知ってるけど」
 会って話をしたい。
 僕は、彼らを――
「知ってるかもしれない。僕がここにいる前のことを! でも、彼らはいないんだ」
「……君に何があって、どうして、ここにいるかは何でも良いと思うよ」
 火野先生は優しく笑って、僕を抱き締める。
「無理に知ろうとするのは良くないから」
「けど、僕は知らないといけないんだ」
「誰がそんなこと言ったの」
「…………」
「無理をしちゃあいけないよ」
「先生……」
「長いんだから、これから人生は。急がず、ゆっくりしよう」
「……あ」
 その言葉。
 その台詞。
 僕は知ってる。
――全くもう、急がないで――
――長いんだから、これから人生は――
――急がず、ゆっくりしよう――
 記憶のどこかで、優しい誰かが僕に言う。
――■■くん――
「っ! せんせ、ぼ……く…………」
 僕は■■だったんだ。
 そう言おうとしたけど。
 その前に、僕は意識を手放してしまった。

―緑川凛太郎―

ショート小説コンテスト

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