『アルバム~回想~』
火野(ひの)先生は、僕たちオカルト研究会の顧問である。
昔、火事に遭って、右目の視力を失い、火傷を負ったため、包帯で顔の右を隠している。
いつも、火野先生は笑っている。
ニコニコしていて、優しい人。
授業は面白いし、部活では少し離れたところで僕たちを見守ってくれている。
そんな火野先生は、たまに懐かしそうに古いアルバムを開いて見ている。
今日も、見ていた。
何となく気になって「先生」と声をかけると。
火野先生は、静かにアルバムを閉じて「ん?」と僕を見る。
「どうした? 左河(さかわ)くん」
「えっと……。先生がよく見ているそれって、いつのアルバムですか?」
「これかい?」
「はい。いつも、懐かしそうに見ているから……」
「ああ、見られていたのか」
あはは、と火野先生は笑う。
「これは遠い昔のアルバムだよ」
「昔? えっと、先生が中学生とかの?」
「うーん、それよりももっと前かな」
おいで、と火野先生は僕を呼ぶ。
僕は火野先生の隣に座る。
「あれ、これ火野先生じゃない」
「うん。これはね、遠い遠い昔。先生の前世って感じかなあ」
「先生、前世の記憶ってあるんですか?」
「何となくね」
火野先生は笑って、僕に話をしてくれた。
濡羽色で長髪の縁の神様のこと。
その神様の弟のこと。
神様の弟と仲良しの青年のこと。
猫のような呪術師のこと。
その呪術師の良き理解者で、仲良しの青年のこと。
幼児退行してしまった青年のこと。
人に対してお節介が過ぎる精神科医のこと。
人に愛され、人を愛した鬼の青年のこと。
彼らの話をしているときの火野先生は、とっても優しい顔をしていた。
その顔を見て、僕はなぜか懐かしい気持ちになってしまった。
――おかしいな。
僕は彼らのことを知らないのに。
なぜか懐かしくて。
気づくと涙が出ていた。
「左河くん?」
火野先生が心配そうに僕を見る。
「どうした? どこか痛い?」
「いや、その、懐かしくて……」
「…………」
「僕は彼らを知らない。けど、懐かしいと感じてしまった」
「左河くん……」
「わからないけど、彼らに会いたい。会えないのは知ってるけど」
会って話をしたい。
僕は、彼らを――
「知ってるかもしれない。僕がここにいる前のことを! でも、彼らはいないんだ」
「……君に何があって、どうして、ここにいるかは何でも良いと思うよ」
火野先生は優しく笑って、僕を抱き締める。
「無理に知ろうとするのは良くないから」
「けど、僕は知らないといけないんだ」
「誰がそんなこと言ったの」
「…………」
「無理をしちゃあいけないよ」
「先生……」
「長いんだから、これから人生は。急がず、ゆっくりしよう」
「……あ」
その言葉。
その台詞。
僕は知ってる。
――全くもう、急がないで――
――長いんだから、これから人生は――
――急がず、ゆっくりしよう――
記憶のどこかで、優しい誰かが僕に言う。
――■■くん――
「っ! せんせ、ぼ……く…………」
僕は■■だったんだ。
そう言おうとしたけど。
その前に、僕は意識を手放してしまった。
―緑川凛太郎―
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