『アルバム~笑顔~』白川湊太郎-ショート小説コンテスト60

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『アルバム~笑顔~』

最後の挨拶が終わり、教室の中央には大きな輪が形成されていく。
扉から出て行く俺に背中を向けているにも見えた。
すでに教科書は自宅に持って帰っていたため、この日唯一の荷物と言えば大きな卒業アルバムだった。中身に興味がない俺にとっては只の重たい紙の束でしかない。

「ただいまー」
「おかえり、卒業おめでとう、早かったね」
母さんは俺が卒業式なのにすぐ帰って来たことに対して、何も思わないのだろうか。
俺は何も言わずに、アルバムをリビングのテーブルに置いて自分の部屋に戻った。
俺は特別クラスでいじめられていたわけではない。
友達がいなかっただけだ。クラスメイトと過ごせたら楽しかったのかはわからないが、一人の時間を上手く楽しめるほど器用な人間ではなかった。
「アルバム見たよ」
「ああ」
事後報告に少し苛立ちを覚えたが、気にしない素振りをした。
「あんた、家ではつまらなさそうにしているけれど、学校は楽しかったんだね」
まさか、そんな瞬間など3年間で一度もなかったように思うけど……
俺は疑問に感じながら、母さんが見ていたページを確認した。
それは修学旅行のページ。関東の大きなテーマパークに行ったときの写真だ。
その中の俺は笑顔でキャラクターのぬいぐるみを持っていた。

世間では夢の国、と言われている。他の奴等は大はしゃぎで次から次へとアトラクションを回っていたが、強制的に連れて来られて孤独な俺には苦行でしかなかった。
一日フリーパスを持っていたが、一人でこれを使う気にもなれなかった。
屋外を彷徨っていたら、教師や他の生徒に一人でいるところを見られてしまうから、身を隠す意味も込めて、ショップの中をウロウロとしていた。
買うつもりもないカラフルなキャンディーや名前も知らないキャラクターのキーホルダーなど、特に何かを手に取ることもなかった。
近くでカシャ、と音がした。いつの間にか隣にカメラを持ったおっさんが立っている。
腕章には俺の学校の名前が書かれている。専属のカメラマンのようだ。
「せっかくこんな楽しいところに来ているんだよ。はい、笑顔で!」
おっさんは売り物のぬいぐるみを俺に持たせてカメラを構えている。
俺は全く乗り気ではなかったが、この状況をぶち壊す勇気も逃げ出す勇気も持ち合わせておらず、仕方なく苦笑いを見せる。
「表情が硬いなあ、もっと自然な笑顔で頼むよ」
カメラを構えて注文を付けるおじさんの向こう側から、怪訝な顔をしたショップの店員がこちらを見ている。俺は自分の意志で持っていないことを示すために、さらにぎこちない笑顔を作った。
おっさんは撮った写真を確認しながら「うーん、これでいいか」と呟いて去って行った。
俺はショップにも居づらくなって、残りの時間をトイレの個室で過ごした。

他のページを確認したがクラスの集合写真以外に俺が写ったものはなかった。
俺の写真を一枚くらい載せてやろうと考えたけど、これしか見つからなかったときの先生の気持ちを考えると少しだけ同情した。

「あんた、ぬいぐるみ好きやったんやね」
母親は未だに的外れなことを話している。アルバムの最後の寄せ書きのページが空欄である事に気づいたら、こんな鈍感な母親でも何か察してくれはしないだろうか。

―白川湊太郎―

ショート小説コンテスト

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