『豚~跳べない豚~』白川湊太郎-ショート小説コンテスト61

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『豚~跳べない豚~』

「飛べない豚は只の豚」
なんて言葉が生まれてから、どれだけの太ったことが嫌な思いをしたことか

「次、藤川」
先生に呼ばれて、僕は重い腰を上げる。
「ブタじゃん」
「どうせ無理だよ」
みんな、僕に聞こえないように、なんて気を遣うことはしなかった。
遠くにある跳び箱を見つめた。
四段、60センチの木箱にさえも笑われてる気がした。
ピッ、と笛の音で動き出す。
笛一つで動き出す。この行為さえも、自分がしつけられた豚のように思えた。
ゆっくりゆっくり走り出した。
いや、回りからは歩いているように見えていたかも知れない。
そう思われた方がよいとさえも感じていた。
結局、僕は跳び箱の上に力なく手をついて立ちどまった。
周りからは「ほらやっぱり」と声が聞こえた。
僕はこれでいいんだ、と思いながら俯いて自分の場所へ戻った。

「次、藤田」
名前を呼ばれてその女子はさっと立ちあがった。
「おい、お母さんだぞ」
隣のやつが僕をからかってきた。
藤田さんは太っている。僕よりも一回りは大きな身体だ。
出席番号も続いていて、太ったもん同士で並ぶことも多かった。
ピッ、と先生の笛が鳴り。藤田さんは手を挙げる。
誰もそんなことしていなかったのに。
真面目過ぎる、それだけで失笑が起っていた。

跳び箱までの距離を、藤田さんは走った。
体型からは考えられないくらいに綺麗な走り方をしていた。
先生もおっ、という表情をしている。
「これ、もしかして……」誰かがそんな風に言ったような気がした。
僕を含めた数メートルの距離の間に体育座りで見守る全員が感じていたと思う。

ドンと大きな音と立てた。
実際の藤田さんは、助走の勢いを飛ぶ力に変えることなく、跳び箱に激突した。
僕よりも大柄な彼女でも四段の跳び箱を突き飛ばす力はない。
「おい、大丈夫か!」
倒れ込んだ藤田さんを見て先生がすぐに駆け寄ったが、さっと立ちあがり
「大丈夫です」と冷静に答える。
他のやつらはざわざわとしていた。
「ほらな、やっぱり飛べない豚は只の豚だよ」
豚でもない誰かが、そう言ったが僕は聞き流した。
その代わり、誰にも気づかれないように藤田さんに向けて小さく拍手をしていた。

―白川湊太郎―

ショート小説コンテスト

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