『豚~ブタ~』
「豚を知ってますか?」
何の脈絡もなく隣にいる梔さんが、俺に話しかける。
「社長、聞いてます?」
「え? うん。聞いているけど」
「なら、答えてください」
「え、まあ豚くらい知っているけど。どうした?」
「豚って、とても綺麗好きらしいですよ。あのなりで」
「あのなりで、て……」
さらっと酷いというか失礼なことを言うなあ、と思いながら。
俺は梔さんを見る。
「で、その綺麗好きな豚の話を、なぜ、急にしだしたの?」
「いや、先日そのことを合コンで文人くんと言ったんですよね。太ってる女の子に」
「は?」
待て、まさか。
まさか! と、俺が思っていると「なーんか」と梔さんは言う。
「女の子に『最低!』と言われて、泣かれたんですよ」
「そ、それはそうだよ……」
「掃除するのが得意というから、普通に『綺麗好きなんて、より一層豚って感じ!』と言っただけなのに……」
「あ、あのね……。梔さん……」
神呪さんは、悪意オンリーでそういうことを言うから、注意するだけ無駄だけど。
梔さんは、悪意なんて全くなくそういうことを言うから、注意しないといけない。
俺は少しため息を吐いて、梔さんに優しく言う。
「たとえ、そうだとしても。豚は人に言うと悪口にしか捉えられないというか。ただの悪口だから」
ね? と、俺が言うと、梔さんは少し考えるようなポーズをしてから「社長」と言う。
「なら、ブタゴリラは?」
「よりダメ!」
―緑川凛太郎―
最近のコメント