『痕跡~野良猫の生き方~』白川湊太郎-ショート小説コンテスト62

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『痕跡~野良猫の生き方~』

人間が一人もいない深夜の公園で、野良猫のコテツは困っていた。
目の前のうんちの後処理をしなければならないためである。
早くしないとこの地域のボス猫に見つかってしまうのだ。

今までは自分のうんちの後始末など気にする必要がなかった。
自然に囲まれた田舎では自分以外の猫と遭遇することなどほとんどなかったからである。
だが今いる都会はどうか、少し路地に入ると野良猫で溢れている。
基本的に猫は単独行動だが、狭い範囲に大勢の猫が集まると、どうしてもその中で優劣をつけなければいけない。
そうしてその地域のボスとなった猫は自分の縄張りであると示すためにもうんちをそのまま放置する、後始末をしない。
対してボスになれなかった猫はボスに目をつけられないように、しっかり自分のうんちに砂をかけるなどして隠して後始末する。それは街に来たばかりのコテツも同じであった。
どうして田舎を飛び出してしまったのだろうか、と後悔していた。
野良猫ではあったが、コテツには毎日エサを与えてくれる老夫婦がいた。
決して飼われることはせず、自由に生きたいと思っていた。
その気持ちが強くなった結果が……これだ。
我に返るともちろん自分のうんちがあった……くさい。
ボス猫だけではなく、通りすがりの人間にさえもすぐに見つかるような場所にうんちをしてしまったことを省みるようなどはなかった。

辺りを見渡すと砂場があった。本来は人間に子供たちのための遊具であるが、そんなこと知る由もなかった。
砂を掬い取り自分のうんちにかける。また砂を掬い取りうんちにかける、その繰り返しだ。小さな猫の手では数十回繰り返す必要があるが、時間がかかることなど気にしていられなかった。
ザッザッと砂を掬っているうちに、コテツの手に何かが当たった。
なんだろう、とその部分を掘ってみると……うんちだった。
猫のうんちである。コテツのそれを同じ形、同じ臭いをしていた。
他の猫も自分のうんちを隠していたのだろうか、それとも飼い猫の主人が隠したのか。
コテツは気にせず砂を掬い続けた。他の猫のうんちが露わになっても自分のうんちさえ隠すことができれば良かったのだ。

しかし作業を繰り返すうちに、どこからか他の猫の鳴き声が聞こえてくる。
ぎゃあぎゃあと、コテツの方を向いて威嚇するような声を出している猫。
彼も野良猫で、同じようにうんちを隠していたのだ。
新参者のコテツは仕方なく砂を戻して、また別のところから砂を持ってくることにした。
だがその場所にもうんちがあり、またその排泄主の猫がぎゃあぎゃあと威嚇をしてきた。
それから何度も何度も砂場を掬ってはうんちを掘り起こし、他の野良猫に威嚇をされた。

途方に暮れたコテツは、自分のうんちを放置したまま田舎に帰ることにした。
ボス猫の目の届くところに痕跡を残したままでも、コテツ自身がいなければそれで構わなかった。

―白川湊太郎―

ショート小説コンテスト

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