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『アルバム~回想~』緑川凛太郎-ショート小説コンテスト60
『アルバム~回想~』 火野(ひの)先生は、僕たちオカルト研究会の顧問である。 昔、火事に遭って、右目の視力を失い、火傷を負ったため、包帯で顔の右を隠している。 いつも、火野先生は笑っている。 ニコニコしていて、優しい人。 授業は面白いし、部活では少し離れたところで僕たちを見守ってくれている。 そんな火野先生は、たまに懐かしそうに古いアルバムを開いて見ている。 今日も、見ていた。 何となく気になって「先生」と声をかけると。 火野先生は、静かにアルバム...
『切符~嵌め方~』黒川洸太郎-ショート小説コンテスト59
『切符~嵌め方~』 切符の端を折り曲げて改札に通すとどうなるかを僕は知っていた。 高校生の頃、友達と興味本位で試したことがあるからだ。 僕はこの知識を誰に教えるわけでもなく、何かに役に立つなんて思ってもいなかった。 だが、こいつだけは許せない。こんなに図々しい奴が平気で生きてる状況に僕は腹を立てていた。 まずそいつは降りる人が優先という暗黙のルールを破り、肩をぶつけながらも車内に入ってきた。 図体がでかく、態度もでかい。ずっとそうやって生きてきたのだろう。 電車内で...
『切符~旅立ち~』緑川凛太郎-ショート小説コンテスト59
『切符~旅立ち~』 この町に住んで、三十年近くになった。 こんなに長く住む予定はなかったのに。 気づくと、この町を好きになっていて。 この町の人を好きになっていた。 だが、いつまでもいるわけにはいかない。 ずっと、このまま、なんて。 「ちょっくら、夢を追いかけていきます」 俺が社長に言うと、社長は「うん」と頷く。 「気を付けてね」 「はい。お世話になりました。百鬼社長」 「こちらこそだよ、神呪社員」 社長は優しく俺を抱き締める。 「いつでも帰っ...
『切符~選んで~』白川湊太郎-ショート小説コンテスト59
『切符~選んで~』 目が覚めると部屋には私しかいなかった。 おーい、と呼んでも返事はない。 そうか、昨日は妻と喧嘩して、仲直りをしないまま寝てしまったんだった。 喧嘩の理由なんて些細なこと、俺は忘れてしまった。 スマートフォンを確認してみたが連絡はなかった。 その代わりに画面の上部にはニュースが表示されている。 なにやら最寄り駅近くの線路で事故があり、列車に遅れが出ているらしい。 事故があった駅を含めて、私の家の近くにはJR、地下鉄、私鉄と3つの駅があった。 どこか...
『カーテン~準備が大事~』黒川洸太郎-ショート小説コンテスト58
『カーテン~準備が大事~』 「カーテンってこんな高いの?」全てはこの一言から始まった。 「まぁまぁするねー。」と彼女は言う。相変わらずユルい感じだ。 「ちょっと待って。あの家って窓何個あるんやった?」僕は部屋の中を順繰り思い浮かべながら数えている。 「小さいのが8つと、大きいのが6つだよ。」僕は驚くが、意外としっかりしている彼女にこれからの安心感を覚えていた。 「じゃあこの一番安い6000円のを平均にしても6000円かける14で・・・」僕が暗算をしていると 「84000円...
『カーテン~内緒で~』白川湊太郎-ショート小説コンテスト58
『カーテン~内緒で~』 何だかんだで、僕と川中さんは互いの家を行き来する仲になった。 事の発端は、僕があまりにも色々なことができないからなのだけれど。 川中さんは、そんな僕を「仕方ないですね」とため息混じりに言い、優しく家に入れてくれる。 今日は珍しく川中さんから「家に来て」と言われ、少しルンラルンラしながら川中さんの家に向かっている。 僕の家から、歩いて十五分くらい。 走ったら五分。 「スキップしながら行くか」 僕はスキップしながら川中さんの家の前まで行...
『カーテン~買換~』緑川凛太郎-ショート小説コンテスト58
『カーテン~買換~』 何だかんだで、僕と川中さんは互いの家を行き来する仲になった。 事の発端は、僕があまりにも色々なことができないからなのだけれど。 川中さんは、そんな僕を「仕方ないですね」とため息混じりに言い、優しく家に入れてくれる。 今日は珍しく川中さんから「家に来て」と言われ、少しルンラルンラしながら川中さんの家に向かっている。 僕の家から、歩いて十五分くらい。 走ったら五分。 「スキップしながら行くか」 僕はスキップしながら川中さんの家の前まで行き...
息子2歳2カ月/娘0歳3か月『いやいや期到来、お母さんお父さん、園庭解放』
『イヤイヤ期到来』 自己主張が激しい年頃になってきました。 テレビを観たい!しまじろうのDVDが観たい!あそこには行きたくない!野菜が入ってるから食べたくない! 思い通りにいかないと泣きだす始末。困ったものです。 特に嫁さんはずっとそれに付き合わないといけないので大変そうです。 大人は大人でやらなければいけないことや順序があるのですが、もうお構いなしに自分のペースをぶつけてくるので、その対応がしんどいと思います。 ごはんに関しても、せっかく嫁さんが作ってくれたものが食...
『涙~悲鳴~』緑川凛太郎-ショート小説コンテスト57
『涙~悲鳴~』 わたしは話をすることができない。 口から出るのは嗚咽に似た何かだ。 それに気づいてからは、わたしは口を利かないようにした。 母には「どうして、口を利かないの」と言われるが、それを答えることは口ではできない。 母はわたしが普通の子でいるように言った。 ゆえに、話をすることができないという異常は許されないのである。 わたしは誤魔化すように笑って頷く。 『本当は、たくさん話をしたいんだ。だけど、口から言葉が出てこないんだよ。これをあなたに知られ...
『涙~採取~』白川湊太郎-ショート小説コンテスト57
『涙~採取~』 恋人に振られて、大きなビルの前で泣いている私。 声を押し殺しながらただただ涙を流していました。 ほとんどの人はこちらに気づくこともなく通りすぎていき、 たまに気づいた人でさえも知らぬフリをしています。 まあ、優しい誰かに話しかけられても「構わないでください」としか答えるつもりでしたが...... そんな私の前に一人の男性が現れました。 どこかのパーティの帰りでしょうか、恐らくは歳は40過ぎ。 素敵なタキシードを着こなして、右手にはステッキを持っています...
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